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鼈の独り言(妄想編)

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破傷風菌 ~自らの痙攣で自分の骨が砕ける病~

 先日このブログではボツリヌス菌を取り上げたが、その際比較として破傷風菌の名前を出した。最強の毒素の片一方を出しておいてもう一方を取り上げないのはなんなので、今回は破傷風菌を考察したい。

 破傷風菌も酸素を嫌う嫌気性の真正細菌で、世界中の土壌や汚泥に芽胞の形で存在している。芽胞の段階では無害であるのもボツリヌス菌と同様で、活動体になってから出す毒素が人間に害を与えるのも共通であるが、この毒素が人間に与える影響はボツリヌストキシンとは正反対の性質を持っている。

 破傷風菌の作り出す毒素はテタノスパスミンと命名されている。致死量はボツリヌストキシンとほぼ同量であるが、テタノスパスミンが神経細胞に取り込まれると神経の伝達組織を逆流し中枢神経に進入、抑制性シプナスを遮断してしまう。
 抑制性シプナスとは人間の運動能力を抑制させる神経系統のことである。人間は過剰な運動により組織の破壊を防ぐために中枢神経が運動神経にリミッターをかけているが、テタノスパスミンはこのリミッターを取り外してしまう。さらにテタノスパスミンは興奮性シプナスも遮断する。興奮性シプナスは感情などの高ぶりで過剰な運動を取らないようにするリミッターである。こうして運動を抑制するリミッターを蓮されてしまうと人体の筋肉は肉体の制御能力を失い「自らの筋肉の収縮で骨折をしてしまう」ほどの痙攣を起こしてしまう。ボツリヌス菌のボツリヌストキシンが筋肉を弛緩させる効果を持つのに対し、破傷風菌のテタノスパスミンは筋肉を収縮させる効果を持つのである。さらに破傷風菌は溶血効果のあるテタノリジンも生成するが、その効果は低く、テタノスパスミンへの対処に重点を置かなければならないため実際の治療上はほとんど問題にならないと言われている。

 ただ、テタノスパスミンは基本的に外傷に破傷風菌が侵入して増殖した場合にのみ毒性を示すものであり、さらに予防ワクチンも開発されているので医療先進国では予防が進んでいるが、発展途上国では未だ死亡率が高い病気である。

 破傷風の発症は傷口より破傷風菌が体内に侵入、増殖しないと発病しないためいわゆる細菌兵器としては使用が難しい。しかし衛生概念が今よりも低かった時代、破傷風菌は恐ろしい病気であり、いわゆるブービートラップに排泄物を付着させたのは破傷風菌の感染を狙った部分もあり、意図していないとは言え実用された細菌兵器のひとつと言えよう。

 破傷風菌は1889年に北里柴三郎が発見、純粋培養に成功しており、北里が設立した北里大学の校章及び法人のシンボルマークには破傷風菌の芽胞を図案化(マッチ棒状のもの)したものであり、北里の研究に由来して制定されたものである。
by narutyan9801 | 2013-08-28 12:00 | 妄想(病気) | Comments(0)

ボツリヌス菌 ~最も強い「毒」を作り出す細菌~

 人間が摂取すると物理的・化学的に影響を与え、体調を悪化させ時には死に至らしめる物質を「毒」と言う。毒には様々な物質があるが、生物が合成する物質も多い。今回は生物が作り出す「毒」でも最も毒性が強いと言われる毒を作り出す細菌「ボツリヌス菌」を考察したい。

 ボツリヌス菌はクロストリジウム属に含まれる細菌で酸素を嫌う嫌気性細菌である。語原はラテン語の「botulus」(ソーセージ)から取られている。これはソーセージを食べた人がよく中毒を起こすことから名付けられたものである。ボツリヌス菌自体は1896年にベルギーの医学者エミール・ヴァン・エルメンゲムによって発見されている。

 ボツリヌス菌自体は世界各国の土中に普通に存在する細菌である。土中ではボツリヌス菌は「芽胞」と呼ばれる形態で存在し、この場合はほとんど無害である。ボツリヌス菌は嫌気性細菌であり酸素がある環境では芽胞状態を保ったままであるが、酸素が無い環境になると芽胞状態から増殖状態へと移行し増殖する。その際に「ボツリヌストキシン」というタンパク質を分泌する。このボツリヌストキシンが人に極めて有害な物質となるのである。

 ボツリヌストキシンが体内に入り神経筋接合部に到達するとボツリヌストキシンと反応して神経伝達物質が破壊され、神経命令の伝達が遮断されてしまい呼吸などの生命維持反応が阻害され死に至ってしまう。その致死量は極めて少量で、ボツリヌストキシン500gで人類を滅亡させることができると言われているほどである。これは多細胞生物であるハワイ産イワスナギンチャクが分泌するパリトキシンのおよそ五倍、破傷風菌が分泌するテタヌストキシンとほぼ同じ致死量だと言われている。ただテタヌストキシンが脳神経まで影響を及ぼすのに対しボツリヌストキシンの影響は末端神経に留まる。しかし錯乱状態に陥る破傷風菌の毒性よりも精神そのものは影響を受けないボツリヌス菌の方が悪質な死に方とも言える。

 人間に対し極めて強い毒性を示すボツリヌストキシンであるが、タンパク質なので熱処理を施したりアルカリに晒してしまうと毒性は消失する。しかしボツリヌス菌の芽胞は高熱にも耐えるので、一度熱処理をし、その後真空パックなどで処理していると内部が酸欠状態になり、ボツリヌス菌が増殖している場合がある。語原となったソーセージでの中毒はまさにその典例であり、日本でも1981年に「辛子蓮根食中毒事件」が起こっている。ボツリヌス中毒に対しては現在血清による抗毒素はあるが、ボツリヌストキシンは神経の伝達組織自体を破壊するので呼吸困難などに陥っている場合、伝達組織の修復まで人工呼吸などを続ける必要がある。

 通常ボツリヌス菌自体は人体に影響を及ぼさないが、ボツリヌス菌の芽胞を乳児が摂取すると体内でボツリヌス菌が増殖して中毒を起こす「乳児ボツリヌス症」を起こすことがある。特に「蜂蜜」による発病が分かっており1歳未満の乳児には蜂蜜は厳禁である。

 ボツリヌストキシンは極めて少量で人を殺めることができるため、生物兵器として各国で研究されてきた。しかし毒性が強すぎて散布する側も危険であり、またタンパク質の変性により安定した効果を期待することは難しく兵器としては現在まで確実に使用されたという証拠はない。またボツリヌストキシンは筋弛緩作用を持ち医薬品としての利用や、最近では皮膚の皺をとる効果があることも分かり美容にも利用されつつある。正に「毒は使いようによっては薬にもなる」のである。
by narutyan9801 | 2013-08-23 13:51 | 妄想(生物) | Comments(0)