鼈の独り言(妄想編)

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2018年 01月 06日 ( 1 )

鳥葬 ~ハゲワシに託される死者の肉体~

 個人的な話で申し訳ないが管理者が小学生の頃日曜日午後7時30分の楽しみだったのが「すばらしい世界旅行」の視聴だった。久米明氏の独特のナレーションで語られる世界の自然、歴史、風俗の映像は片田舎の子供に刺激と衝撃を与えてくれたものである。この「すばらしい世界旅行」の放送シーンで今でも忘れられない回がある。その映像は男性が鉈か山刀を振るってる映像なのであるが画面の下の部分が黒く塗りつぶされている異様な画面であった。実はこの画像、人間の遺体を鉈状の刃物で解体しているシーンだったのである。当時既にモザイク処理の技術はあったと思われるがそれでもこの画像の衝撃を完全に打ち消すことができず塗りつぶしという極端な処理を施さざるを得なかったのだろう。今回はこの放送で取り上げられていた「鳥葬」を考察したい。

 鳥葬は現在もチベット、内モンゴル地方、その他ごく限られた地域で行われている葬儀である。遺体をハゲワシ等の腐肉食の鳥に食べさせて処理をする葬儀であるが、この葬儀の始まりは自然発生したのではなく信仰、具体的に言うとゾロアスター教の教義から発生したことが現在指摘されている。

 ゾロアスター教では人間の遺体には悪魔が宿るとされており、神聖視される火、水、土を用いる火葬、土葬、水葬は行われなかった。ゾロアスター教を国教としたササーン朝ペルシャでは遺体は路上に放置され、骨になったら崖に掘られた納骨用のトンネルに運ばれ処理されていた。そしてこの骨になる過程で一役買ったのがハゲワシなどの腐肉食の鳥類であった。現在鳥葬を行っている地域のうちゾロアスター教の教義を忠実に守って鳥葬を行っている地域がインドを中心に存在する。死者はダフマと呼ばれる塔状の施設に運ばれそこで鳥に軟部を食べられ残された骨は直射日光に晒され細分化して処理されるのであるが、現在のゾロアスター教信者の居住する地域では都市化が進んでいる地域も多く他の葬儀方法を取ったり太陽光を利用して熱による処理(いわゆる火葬)を行う場合も多い。
 ゾロアスター教の葬儀方法が東へ伝播していく過程で鳥葬も伝わっていったと思われる。そして多くの地域ではゾロアスター教信仰が衰退すると鳥葬も消えていったと思われるのだがチベットなどの地域ではゾロアスター教の衰退後も鳥葬の風習は宗教を超えて存続している。

 鳥葬が現在も行われている地域でも他の葬儀、火葬・土葬・水葬などは行われているが一般的ではない。自然環境がそれを許さないのである。
 まず遺体を火で処理する火葬であるが人を完全に灰にするにはかなりの可燃物が必要になる。チベットなどの森林限界を超えた高所や平原が多い内モンゴルなどでは可燃物である薪を大量に集めるにはかなりの財力が必要である。これらの地域で火葬を行えるのは富裕層のみに限られるのが実情である。
 次に土葬であるが人を埋葬するには岩盤ではない堆積した土壌が必要であるがそれは人間の居住や耕作にも必要な土地である。人が暮らすために必要な土地をおいそれと埋葬地にするわけにはいかず土葬は疫病などで亡くなった死者を埋葬する場合に用いられる。
 最後に水葬であるが実は鳥葬には執り行う鳥葬専門の職人がおり職人を呼べない地域で大きな河川がある地域では水葬を行う地域も存在する。とはいえ山がちな地域では遺体をそのまま流す訳にはいかず物理的に分解して川に流すことになる。また疫病の死者は疫病蔓延の可能性があるため土葬が行われる。こうした理由で現在でも鳥葬は行われているのである。なおチベット仏教では化身ラマと呼ばれる菩薩や如来が現世に姿を現した化身であるラマを葬る「塔葬」という葬儀も存在する。

 現在の鳥葬は専門的な職人の手で行われる場合と死者の地域・親族が執り行う場合とに大別できる。地域・親族が行う場合は多くが特定の高台に死者を運びそのまま遺体を放置するか解体を行い自然に任せるのが一般的である。これに対し職人が行う鳥葬は決まった日時、場所に死者を運び、複数の遺体の葬儀を執り行う。葬儀の日職人は特殊なお香を焚いて鳥たちを呼ぶ。そして遺族から遺体をを受け取ると遺体に鉈等で人為的な損傷を加えるのである。一見残忍な行為に見えるが人間の皮膚は思った以上に丈夫でハゲワシ等の嘴では裂くことが出来ない。このためハゲワシたちは肛門などから内蔵などを中心に食べ進むのであるが皮膚は残ってしまい特に胸部は皮が張った肋骨のまま放置されてしまう。これを防ぐために人為的に損傷を加えるのである。またこの時に踝の骨や頭蓋骨の一部などを遺族に渡す地域もあると言われる。遺族はこの遺体の一部を持ち帰り葬るのである。
 鳥たちが死者の肉体を食べている間も職人たちは遺体の解体を進める。特に大腿骨や脊髄といった大きな骨はハンマーなどを使って砕き、鳥たちが食べやすいように手を加えてゆく。最後に細かくなった骨を小麦粉などに混ぜ、カラス等のやや小型の鳥に与える。こうして死者の肉体はほとんどすべてが鳥たちに食べられて消滅するのである。かってこの鳥葬は観光客なども見学できたが現在は鳥葬が行われてい中国、チベット両国により関係者以外の立ち入りや撮影は禁止されている。

 チベット仏教では人間の肉体は魂の入れ物であり、死者の肉体は魂が抜けた抜け殻であるという考え方がある。人間は生きている間多くの生き物を食べなければいけず死後多少なりとも還元しようという思想と遺体の処理という現実的な問題を鳥に託し死者を葬るのは外部の人間からみるとなかなか複雑な思いもよぎるのであるが非常に合理的な葬り方でもあるのである。

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鳥葬の主役であるヒマヤラハゲワシ。近年鎮痛作用のあるジクロフェナクを塗布された家畜の死体を食べて多数のヒマヤラハゲワシが中毒死し生息数が激減していると言われている。

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by narutyan9801 | 2018-01-06 12:03 | 妄想(その他) | Comments(0)