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鼈の独り言(妄想編)

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イオ ~地球以外で唯一熱い溶岩が視認できた天体~

 溶岩は岩石が溶けたものであるから熱い、というのは地球での常識である。太陽系という範囲で見ると長石、シリカ、鉄などが融解した「熱い溶岩」を噴出する天体は少数派である。太陽から見て火星以遠の天体はガスが主成分の木星、土星を除くとほとんどがメタンなどが低温で固体化した「氷」の惑星でそういった天体では「冷たい」溶岩が存在する。岩石が主成分の「地球型惑星」で現在火山活動が目視で確認できるのは地球のみである。観測から金星でも火山活動がある可能性が高いが厚い大気と雲に阻まれて火山活動を直接観察することは出来ない。視点を太陽系全体に広げてみると地球以外で「熱い溶岩」が直接観測されている天体が一つだけ存在する。今回はその衛星「イオ」を考察してみたい。

 イオは木星の衛星で有名なガリレオ衛星の一番内側(一番木星に近い)を公転している衛星である。発見者はガリレオ・ガリレイで1609年1月7日に自作の望遠鏡で木星を観察した際に複数の衛星を発見している。だがこの日たまたま地球上からの視点でイオとエウロパ(第2衛星)が接近しており別々の天体がどうかの区別が付けられなかった。翌8日の観測で二つの天体であることが判明し公式の発見日は1月8日となっている。
 ところが1614年ドイツの天文学者シモン・マリウスが自身の著書でガリレオより早く木星の惑星を発見したと主張したのである。シモンが記載した観測日記の日付は1608年12月29日になっておりガリレオよりも11日ほど早かった。だがシモンが使っていた暦は紀元前に制定されたユリウス暦と言われガリレオの使用したグレゴリオ暦よりこの時点では11日遅い日付になっており発見は同日ということになる。ガリレオが先に発見を発表しており現在では木星の衛星発見者はガリレオという認識が一般的である。
 発見者にはなれなかったがシモンが提案した木星衛星の命名法は受け入れられ木星第一衛星はギリシャ神話の神イーオーから採られている。ちなみにイオの等級は5.02で目のいい人ならば地球からでも肉眼で見える明るさであるがすぐそばに等級-3の木星があるため肉眼での観察はほぼ不可能である。

 月以外の衛星の発見は当時の天文学者の興味を引き詳細な観測が行われた。この結果イオの周期が分かりこれを利用してデンマークの数学者オーレ・レ-マが地球と木星の距離によりイオが木星の裏側に隠れる「食」の周期に変化が生じることを観測し光速が有限であることを初めて証明している。しかしイオがどのような星であるかは19世紀後半になるまで分からなかった。
 1890年代にイオの赤道付近と極付近の表面の色に違いがあることが地球からの観測結果によって分かった。当初この色の変化はイオが球形では無いことや二連星であることが予想されたが観測が進むにつれて表面の地質的な違いによるものとの推測がされるようになる。これは氷で形成されていると考えられていたイオが他の成分で形成されていることを示唆するものだった。さらに1950年代には他のガリレオ衛星には存在する水がイオの表面には存在しないことが示唆されイオの特異性が明らかになった。こうした中で惑星探査機での調査が試みられるのである。

 1973年にパイオニア10号、翌年に同11号が木星に接近し平行してイオの観測も行われる。イオの質量が計測されイオの密度が月を上回り内部に鉄のコアを持ち岩石を主体として形成されていることが明らかになった。しかし期待された近距離の撮影は一部を除いて上手くいかなかった。宇宙線による高放射能領域の影響で画像が乱れたためと言われている。
 1979年に接近したボイジャー1号、2号からは良質な画像が送られ科学者たちを驚かせることになる。イオの表面は黄色に染まり部分的に茶、赤、緑などの色彩が点在する姿だったのである。他の衛星には多数見られるクレーターは見られず比較的なだらかな表面と点在する山というかなり単調な地形であった。そしてこの地形を生み出す原因もボイジャーは捉えていたのである。
 ボイジャー1号のイオへの最接近直後に撮影された画像を分析していたエンジニアがイオの表面から立ち上る噴煙を見つける。さらに解析してみると複数の噴煙が上っていることが分かったのである。ボイジャーの接近前にイオが木星及び他の衛星であるエウロパ、ガニメデからの引力を受け潮汐加熱や摩擦熱を発生させているという論文が発表されていた。イオの火山活動はそれを実証したものとなったのである。地球やおそらく金星で起こっている火山活動のエネルギーは惑星誕生時の余熱や含有している放射性物質の崩壊が主な熱源であり潮汐力は主な熱源とはなっていない。それに対してイオの火山活動のエネルギーはほぼ潮汐加熱や摩擦熱となっており外部からのエネルギーが天体の地質活動を起こしているという事象の実例になったのである。この火山活動の噴出物でイオの表面は覆われクレーターは形成されてもすぐ隠されてしまう。表面が比較的なだらかなのも活発な火山活動が原因だったのである。

 ボイジャーの接近後しばらくは惑星探査機の派遣は無かったが1995年に木星探査機「ガリレオ」が木星に到着し観測を開始する。しかし正規ミッションではガリレオはイオへの接近を試みなかった。イオの周囲は高放射能環境のため機器の破損を避けたためである。正規ミッションは1997年に終了しオプションのミッションでガリレオは数回イオにも接近している。2000年には土星に向かう探査機カッシーニがフライバイの目的で木星に接近した際同時に別方向からの観測を行うという試みもおこなっている。ガリレオの運用終了後現在は探査機ジュノーが木星の周回軌道に入っておりイオの探索も継続中である。ハッブル宇宙望遠鏡や地上からの観測技術も向上し探査機を介さなくてもイオの噴火活動を観測できるようになっている。

 イオの火山活動を支えている潮汐加熱はイオと木星の近木点と遠木点との差によって生じている。イオの軌道は真円では無く円に近い楕円形であるが離心率は0.0041と非常に小さい。しかしもしイオが単独で木星の周りを回っていれば木星とイオの重量差が圧倒的なためいずれはほぼ円に近い軌道になってしまう(重量差が圧倒的な火星とその衛星ダイモスの離心率は0.0002である)それを妨げているのが他の衛星エウロパとガニメデである。イオ、エウロパ、ガニメデは1:2:4の平均運動共鳴を起こしている。イオが木星を2周するごとにエウロパは1周、イオが木星を4周するごとにガニメデが1周とこの三つの衛星は木星の周りを整然と公転しているのである。このためイオの公転は真円にならずにわずかな楕円を描き続けている。イオの「熱い溶岩」は木星とそれを取り巻く衛星の相互作用で成り立っているのである。
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 木星探査機ガリレオが捉えたイオ。一見平坦で静かな印象であるが太陽系随一の火山活動を行っている天体である。またイオの表面には水がほぼ存在しない。すぐ外側を回っているエウロパが厚さ100kmに及ぶ水の層を持つのとは対照的である。

by narutyan9801 | 2019-05-08 20:56 | 妄想(天文) | Comments(0)