鼈の独り言(妄想編)

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窒素 ~大気の8割を占める気体は「声」も支配する~

 地球の大気の組成は季節の変動が大きいが乾燥した状態(水蒸気を大気に含まない状態。水蒸気は大気中の1~4%を占める)酸素が約21%、アルゴンが約1%、二酸化炭素が約0.04%である。近年温室効果で増加が注視されている二酸化炭素であるが現在のところは大気中に占める割合はごく小さい。そして大気中の約8割、約79%を占める気体が窒素である。今回はこの窒素を考察したい。

 現在の大気の大部分を占める窒素であるが、地球が誕生した当初はごくごく微量が含まれていただけだったと考えられている。誕生したばかりの地球の大気は非常に高温高圧で大部分が水素とヘリウムで太陽の構成に近いものだったと考えられている。水素やヘリウムは軽く誕生したばかりで活動が活発だった太陽からもたらされる太陽風で吹き飛ばされてしまい数千万年後にはほとんど無くなってしまったらしい。代わって地球の大気の大部分を占めたのが地球の火山活動で地球内部から噴出してきた二酸化炭素とアンモニアであった。海が出来る前の地球の大気は現在の金星の大気に似ており大気中の二酸化炭素の温室効果で温度は400℃を超え100気圧ほどの高圧状態、言い換えれば濃い大気濃度だったと思われている。そしてこの時微量の窒素分子そのものやアンモニアが分解されて窒素分子が誕生しているが密度の濃い古代地球の大気成分の中ではごく微量だったと思われている。しかしこのごく微量の窒素がのちのち大気の大部分を占める窒素になるのである。
 やがて地球の表面温度が冷え大気中に含まれていた水蒸気が雨になりついには海を形成する。誕生したばかりの海は酸性だったが岩石が解かされ中和された海に大量の二酸化炭素が溶け込み大気中の二酸化炭素濃度が急激に下がってゆき相対的に窒素が大気中に占める割合が増えていく。そして生命が誕生し生命の光合成活動により海洋に溶け込んだ二酸化炭素が光合成で消費され酸素が生み出されることにより現在の大気組成になったと考えられているのである。

 1772年、スコットランドの化学者ダニエル・ラザフォードにより窒素は「発見」される。当時二酸化炭素は発見されていたが密閉容器の中で火を点し酸欠によって自然鎮火した空気から二酸化炭素を取り除いた気体では火が点らないことが分かっていた。当時の化学では燃焼という化学反応には「フロギストン」(燃素)という物質が形成され密閉容器の中ではフロギストンが飽和状態になるため燃焼できないという説が信じられていた。ラザフォードは燃焼で酸素が消費され二酸化炭素を取り除いた気体はフロギストンが飽和状態になった気体と思い発表したのである。なお日本語の窒素という文字の由来はラザフォードが生物の生命活動でも燃素を発生させており窒素のみの気体中にマウスを入れてみると死んでしまったことからフロギストン飽和状態では生物は息ができないと考えnoxious air(有毒空気)と命名し、それがドイツ語訳ではStickstoff(シュティクシュトフ,窒息に至らしめる物質)と訳されそのドイツ語をそのまま日本語に訳したものである。もしかしたらドイツ人であったシーボルトがもたらしたものかもしれない。マウスを死に至らしめのは窒素そのものではなく酸素の欠乏が原因ではあったのだが。

 その後フランスのアントワーヌ・ラヴォアジェによりフロギストン説が否定され、さらにラヴォアジェ自身が窒素が元素であることを発見すると窒素の研究が飛躍的に進み窒素と生物・化学の関連性が分かってきたのである。
 生物を形成するアミノ酸やタンパク質などはほぼすべてが窒素の化合物で形成されている。特に植物の生育には窒素は不可欠で他の必須要素であるリン・カリウムと共に肥料の三大要素と言われている。ところが窒素分子(N2)は非常に安定した物質で生物がこれを利用するためには微生物が空気中の窒素をアンモニアなどに変化させる窒素固定と呼ばれるプロセスを経ないと利用できなかったのである。窒素酸化物は水に溶けやすく継続的に施肥をする必要があり空気中にほぼ無尽蔵にある窒素を微生物の力によらず固定する方法が研究され1903年にフリッツ・ハーバーとカール・ボッシュにより窒素を人工的に固定する方法が発明されたのである。この発明により人類の農業生産量は飛躍的に増大した。他方窒素酸化物は火薬の原料にもなる。それまでの天然鉱物を利用しての火薬生産から人工的に火薬を生成することも可能になった。実際に第一次世界大戦では火薬の原料となる窒素酸化物系の鉱物を産しないドイツがほぼすべての火薬を人工的に窒素固定した窒素酸化物から生産している。

 このように人類に恩威をもたらす窒素であるが、圧力がかかる状態で窒素を吸引してしまうと人体に牙をむくことがある。いわゆる「減圧症」という症状である。圧力がかかって体積が小さくなった状態で血液中に溶け込んだ気体が圧力が下がると気体に変化して人体に様々な影響を与える障害である。窒素は空気中に多量に含まれ潜水病の主要な要因となる。また血液中に窒素が多量に溶け込むとアルコール酩酊に近い状態になる「窒素酔い」を起こすこともありダイビングをする際に窒素はやっかいな存在となっているのである。
 この減圧症を防ぐために大深度潜水などではより安全な(100%安全ではない)ヘリウムと酸素の混合気体を用いるが、ヘリウムは音の伝播が早く(空気中の伝播のおよそ3倍)この気体を吸引した人の声が変わってしまう。管理者も30年ほど前のテレビ番組で愛川欽也氏がこの気体を吸って声を発した時の衝撃を今でも覚えているが声が変わっただけで人全体の印象も変わってしまうものだと考えさせられたものである。窒素は「声」という人の個性を決める重要な部分を担っている気体でもあるのである。

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by narutyan9801 | 2018-01-26 04:49 | 妄想(その他) | Comments(0)