鼈の独り言(妄想編)

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ロードハウナナフシ ~絶滅から救ったのはたった一本の灌木だった~

 「絶滅したと思われていた動植物が人知れず生き残っていた」という例はいくつかある。そのほとんどが人が踏み入ったことのない所で生き残っていたというものである。今回はそんな事例でもかなり特殊な例と思われる「ロードハウナナフシ」を考察したい。

 ロードハウナナフシはオーストラリア大陸の東にあるロード・ハウ島に生息していたナナフシの仲間である。ロード・ハウ島はオーストラリアの東岸から約600キロ離れており、他の陸地と地続きになったことはない。このため島の生態系は独自の進化を遂げており数々の固有種が生息していた。ロードハウナナフシも独自の進化を遂げた昆虫である。
 ロードハウナナフシは雌の体長が約15cmで雄はこれを若干下回る。体長15cmはナナフシの仲間では飛び抜けて大きいわけではないが、他のナナフシが擬態の為木の枝に似せた細い脚を持つのにたいしロードハウナナフシは太短い脚であり、その姿から「陸のザリガニ」と呼ばれていた。また天敵がほとんどいない環境のため飛翔の必要がなくなり翅が退化している。

 かってはロード・ハウ島ではどこでも見られたというロードハウナナフシであるが、二十世紀初頭に急速に数を減らしてしまう。原因は人間が持ち込んだクマネズミであった。第一次大戦中ロード・ハウ島にも複数の船が立ち寄っておりこの船に「密航」していたクマネズミが島に「不法上陸」してしまったらしい。元々ロード・ハウ島にはほ乳類はコウモリしかおらず、全く天敵を知らなかったロードハウナナフシは瞬く間に喰い尽くされてしまう。最後に個体が観察されたのは1920年。わずか数年でロードハウナナフシは地上から消えてしまったと思われていた。

 ロード・ハウ島から南に約16キロの海上に「ボールズ・ピラミッド」と呼ばれる小さな島がある。島というのは名ばかりで海上に塔のように高さ551mの岩が突き出している岩場といったところである。1960代にこのボールズ・ピラミッドを制覇しようとしたロッククライマーのパーティーが奇妙な昆虫の死骸を発見して持ち帰る。詳しく調べてみるとそれは絶滅したはずのロードハウナナフシであった。さらに数年調査が行われ、数体の死骸を発見することができたが、生きた個体は見つからず生存の確証はつかめなかった。

 ボールズ・ピラミッドにロードハウナナフシが生存するかどうか本格的な調査が行われたのは最初の死骸が発見されてから40年近くが経過した2001年になってからであった。岩場にはほとんど平坦なところがなく、学者といえどもロッククライミングに熟練していなければ調査ができないほどであり、自然保護団体からロッククライミングの熟練者がサポーターとして参加しようやく調査が可能になったのである。この調査で生きたロードハウナナフシが80数年ぶりに確認されることになる。

 ロードハウナナフシはボールズ・ピラミッドの岩場の間に生えていたフトモモ科の灌木の下にかろうじて数十個体が生息していたのである。2年後再び調査が行われ、たまたま交尾を行っていた二組の個体を採集し、人工繁殖を試みることになる。ロードハウナナフシの生態はほとんど知られていなかったので試行錯誤の連続であったが、現在は飼育下での繁殖が順調に進み、卵から孵化する様子も動画で見ることができる。

 それにしてもロードハウナナフシがボールズ・ピラミッドで生存していたことは様々な偶然が重なった結果だと思われる。前述したようにロードハウナナフシは翅が退化しており、自分が飛翔してボールズ・ピラミッドに到達するのは不可能である。鳥の羽毛に卵かごく初期の幼虫が付いてたまたまボールズ・ピラミッドのさらに食草であるフトモモ科の木に到達する可能性は0ではないだろう。しかしこれだけでは「繁殖する」ことはできない。ナナフシの仲間の中には雌のみで単為生殖を行うものも存在するが、ロードハウナナフシは雌雄異体である。昆虫の短い「繁殖可能期間」中にたまたま雌雄がボールズ・ピラミッドで出会えたのか?それとも何らかの原因で妊娠した体長15cmの雌が16キロの海上を旅してボールズ・ピラミッドに到達できたのか?謎は尽きない。自然は時にはこんな奇跡を生み出すこともできるのである。

ロードハウナナフシの孵化の様子(YouTube)

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現在野生のロードハウナナフシが唯一生息する島、ボールズ・ピラミッド。平坦な場所はほとんど無く樹木に大きく依存するナナフシが生息できたことは奇跡的である。
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by narutyan9801 | 2013-07-24 10:54 | 妄想(生物) | Comments(0)