鼈の独り言(妄想編)

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ベイチモ号 ~20世紀の幽霊船騒動~

 幽霊船という言葉にはどんなイメージがあるだろうか?大きく分けて二つのイメージがあると思う。一つは船そのものが幽霊であり、出会うと不幸になる(出会ってしまった方の船が沈むとか)幽霊船。もう一つが無人の船が漂流しているが発見され、乗員が行方不明になってしまっている船を幽霊船とするものである。後者の例としては有名なメアリー・セレスト号などの実例がある。今回は20世紀に入ってから発生した「無人の幽霊船」ベイチモ号を考察したい。

 ベイチモ号は1914年にドイツで建造された貨物船で最初は「アンゲルマネルフェヴェン」号といった。第一次大戦に入ってからの建造で物資の節約からか蒸気機関を搭載し、巡航速度は10ノットの低速船であった。第一次大戦中はハンブルクと中立国スウェーデンとの貿易に従事し終戦を迎えることになる。戦後の賠償でアンゲルマネルフェヴェン号は賠償艦としてイギリスに引き渡され「ベイチモ」号と改名される。ベイチモ号は民間に払い下げられ、スコットランドとカナダの毛皮貿易に従事することになる。

 毛皮貿易に従事していたベイチモ号は1931年10月8日、叢氷(小さな氷が集まり大きな棚氷に成長したもの)の中に取り残されてしまう。低出力で砕氷能力のないベイチモ号は自力での脱出を諦め、37名の乗組員のうち22名は飛行機で脱出し、残った15名は船から離れたところに小屋を建て、氷の緩むのを待ち、船を脱出させるために待機することになった。一月半後の11月24日に激しい嵐が当地を襲い、嵐が静まったあとベイチモ号の姿は消えてしまったのである。
 当初ベイチモ号は沈没したと思われていたが、数日後イヌイットの漁師がベイチモ号が約70キロ離れた地点に漂着しているのを見たと話し、乗組員はベイチモ号の確認に向かう。発見されたベイチモ号に船員が乗り込み詳細を調べた結果、ベイチモ号の損傷は深く春までには沈没してしまうと判断され積荷を回収してベイチモ号は放棄されてしまう。しかしベイチモ号は沈まず、その後カナダからアラスカにかけての海を彷徨うことになる。

 放棄から二年後の1933年春にはベイチモ号にブリザードで身動きがとれなくなったイヌイットが避難をし、ブリザードをやり過ごして生還している。この夏にはベイチモ号の所有会社であるハドソン社(ゲームメーカーじゃないよ)が回収に乗り出したが、この時ベイチモ号は洋上を漂流して遠方まで流されており費用の面で断念せざるを得なかった。

 翌年ベイチモ号の噂を聞いた探検家がベイチモ号の探索を行い、発見後船体に乗り込むことに成功する。翌年にはアラスカ沖で何度もベイチモ号が目撃され「幽霊船」ベイチモ号を捕まえようとする動きが活発になる。1939年にはヒューイ・ポルソンらの回収チームがベイチモ号への接触に成功し回収できるかと思われたが、例年にない流氷の多さと巨大な氷盤が曳航の邪魔をし、結局は回収を放棄せざるを得なかった。

 その後第二次大戦の勃発もあり、ベイチモ号の回収も鎮静化する。大戦終結後もベイチモ号の目撃情報は届いていたが、建造から40年以上経った船体はいつ沈むか分からず、近寄ることも危険であると判断されるようになり回収は断念される。それでもベイチモ号はしばしば人の目に触れ、健在ぶりをアピールするかのように人々の話題に上っていた。

 ベイチモ号の最後の目撃情報は1969年、放棄された時と同じように叢氷の中に閉じこめられているのが目撃されている。建造から実に55年の月日が経っていた。これ以降の目撃情報はなく、人工衛星などを使っての探索でも発見されていないので、おそらく沈没したものと思われる。

 ベイチモ号がこれほど長く北極海で浮かんでいられた決定的な原因は分かっていないが、いくつかの原因があげられると思う。まずベイチモ号が放棄される際に積荷を回収されていたので、吃水が浅くなり氷の圧迫が受けても氷の上に乗り上げることができ、船体破壊に繋がらなかった可能性が高い。また氷に覆われていたので船体へのダメージが緩和された。低温で船体の腐食に時間がかかった。船体を放棄する際に開口部をすべて締め切り水密状態にしたので浸水が局所的で収まり転覆が避けられた等々、様々な要因が複合的に絡まった結果であろう。それに加えて「ベイチモ号自身が幸運だった」という点もあったと言える。もしかしたら今でもベイチモ号は氷に包まれたまま、北極海をさまよっている…可能性もゼロではない。
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「幽霊船」ベイチモ号。有名な写真であるが、よく見ると煙突から煤煙が出ており、機関は動いている状態である。おそらく放棄直前の撮影と思われる。
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by narutyan9801 | 2013-06-11 17:37 | 妄想(事件・事故) | Comments(0)