鼈の独り言(妄想編)

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素数ゼミ ~発生周期を数学的に選んだ蝉~

 蝉は非常に幼虫期間の長い昆虫である。日本の代表的な蝉であるアブラゼミは6年もの長い幼虫期間を持つ。自分は子供の頃学研の「昆虫のひみつ」という本を読み、その中で「アメリカでは幼虫の期間が17年という『17年ゼミ』というセミがいる」という記載に心引かれた記憶があるが、この蝉の「17年」という長い幼虫期間には種の生き残り戦略への執念が込められていた。今回は北アメリカ大陸に生息する「素数ゼミ」を考察したい。

 「17年ゼミ」という蝉は実は一種類ではなく三種類いることが知られている。さらに幼虫期間が若干短い「13年ゼミ」も4種類が確認されている。お互いの蝉は生息地域が分かれており17年ゼミは北部、13年ゼミは南部に生息していて分布域はほとんど重ならない。
 この蝉の最大の特徴が長期間に及ぶ幼虫期間と成虫発生の周期化である。たとえばAの区域にすむ17年ゼミは17年ごとに一斉に成虫に羽化し、その年以外は全く発生しないと正確な発生周期を保っているのである。成虫の寿命は一月足らずですべての蝉が短期間に一斉に発生するために木々にセミが鈴なりになってしまうという状況になる。ちなみに発生のグループは北米大陸に分散しているので、たとえば今年はA地区で発生し、翌年はB地区、そのまた翌年はC地区と順番に発生しているので、全米が17年に一度セミに埋め尽くされるということはない。

 このセミの長い幼虫期間は氷河期に寒冷化した生息環境で成熟までに時間がかかるようになったためと言われている。ではなぜ13年や17年といった周期で一斉に成虫が発生するのかという謎には面白い仮説で説明がなされている。

 成虫が一斉に発生するのは捕食によるリスクを軽減させる効果があると思われている。セミは大型の昼行性昆虫であるが、多くの捕食性動物の餌になり単独では狙われやすい。そのため一斉に羽化することにより単独でいる場合よりも捕食率が下がる効果があると思われ、まとまって羽化をするようになったと思われている。

 次に13年や17年と言った周期性の羽化を行うかであるが、こちらには二つの説がある。いずれも「13」や「17」が素数であることに着目した説である。

 一つ目は天敵との遭遇機会を減らすためという説である。捕食者やセミを媒介とする寄生者も周期的に発生する能力を身につけた場合、たとえば周期が3年や5年といった場合、発生周期がずれていても近い将来同じ発生年数にぶつかる可能性が高い。これに対して「素数」の13年や17年であればかなり長期間発生年数が重なることがなく、生存に有利であるという説である。

 もう一つが交雑による自然淘汰である。たとえば12年周期と14年周期でセミが発生した場合、最小公倍数の84年ごとに同じ時期に違う種類のセミが発生し、多くのセミが交雑を起こしてしまうことになる。雑種は多くの場合子孫を残す能力が欠如しており、結果的に双方の発生周期のセミの個体数が減ってしまい、捕食圧で絶滅してしまう。だが13年や17年といった「素数」であれば交雑が生じるリスクが無く、結果としてこの周期のセミが生き残れたというものである。

 双方とも鍵となっているのが生物活動にはほとんど縁の無いような「素数」であることが面白い。ちなみに10の位の素数には「11」や「19」もあるのだが、11年では成虫の生育期間までには短すぎ、19だと今度は長すぎるようである。実際17年ゼミの研究では二令幼虫の際自主的に摂食制限を課して生育期間を4年延ばしているということを示唆する研究結果もでている。

 ちなみに17年ゼミはかって13通りの発生グループがあったのだがそのうちXIと呼ばれたグループは1954年の成虫発生を最後に絶滅が確認されている。原因は現在のところ究明されていないのだが、この年なにがあったのか調べてみると


  3月 第五福竜丸が死の灰を浴びる
  6月 旧ソ連で世界初の原発が稼働開始
  9月 洞爺丸事故
  11月 映画「ゴジラ」封切

と、なんか気分が暗くなるような出来事が起こっている。本当の真相は、絶滅したセミにしかわからないことなのだろう。
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by narutyan9801 | 2013-05-23 09:20 | 妄想(生物) | Comments(0)