鼈の独り言(妄想編)

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アッピンの赤い本 ~不注意から人間に取り上げられた魔書~

 キリスト教が誕生する以前の地中海世界で崇められた偉大なる神、時を経てキリスト教が広まった世界では一転して地獄の大公爵の地位を得ることになる。今回は偉大なる古代の神にして醜悪なる悪魔でもある「バアル」の持ち物「アッピンの赤い本」を考察したい。

 バアルは地中海世界で嵐と恵みをもたらす雨の神であり様々な民族が神として祭っていた。なかでもフェニキア人は最高神「バアル・ハンモン」としている。しかし豊穣をもたらす神の常としてバアルにも「生け贄」が捧げられるのが常であった。特にフェニキア民族とポエニ戦争を戦ったローマ人にとってバアルは最悪の神であったに違いない。生け贄として捧げるにしても同国民を捧げるのは抵抗があり、生け贄は戦争捕虜が捧げられることが多かった。特に第三次ポエニ戦争ではカルタゴ側が包囲中のローマ軍に生け贄の様を見せつけて戦意を衰えさせるために残忍な方法で生け贄を捧げたためにローマ軍内ではバアルを憎む感情が強かった。第三次ポエニ戦争の終結後カルタゴが完全に破壊され、耕作ができないよう耕作地に塩を撒かれた要因の一つに豊穣神バアルの存在もあったろう。

 ローマがキリスト教を国教に定めたのはカルタゴ戦争から数百年の時を経ておりすでにバアル信仰は消え去っていたが、ローマ人の記憶からバアルの恐怖は消えておらず、それが具象化したのが悪魔としてのバアルである。
 悪魔としてのバアルはルシファーの腹心であり、ソロモンの72将の筆頭を務め、他の将を凌ぐ66師団の軍を率いる地獄の大元帥である。具体的には管理者もよく分からないのだが…。面白いことにバアルは「偉大な」という意味の「ゼブル」という冠詞をつけて「バアル・ゼブル」と呼ばれていた。これが旧約聖書でゼブルをゼブブ(ヘブライ語で蝿の意味)と変化させ「蝿のバアル」と嘲笑する言葉が造語されたのだがこれがいつの間にか「ベルゼブブ」と巨大なハエの姿をした別な悪魔を誕生させてしまう。それだけバアルが持っていたネームバリューが大きかったということだろうか。

 さて、バアルがなぜそこまでの実力者なのかというと彼が持つ「アッピンの赤い本」という魔書がその力の所以である。このアッピンの赤い本には世の万物すべての「真の名前」が記されていると言われている。この「真の名前」はそれを唱えられると唱えたものに絶対服従してしまうという効力を持っている。これを持っているがためにバアルはルシファーすら軽々しく扱えない存在になっていたのである。しかしあろうことかバアルはこの「アッピンの赤い本」を人間に取り上げられる失態を演じてしまっている。

 14世紀のスコットランド、アーガイルという村に一人の少年が住んでいた。少年の両親は早くに亡くなり、少年は聡明な人物の従者となり羊飼いをして過ごしていたのであるが、その少年に目を付けたバアルが人間に姿を変え自分の従者にならないかと声をかけたのである。少年は身なりは立派だがどこか陰気な人物を疑い、自分の主人に伺いをたてないと返答できないと答え翌日ここで返事をするとバアルを一旦引き取らせる。
 少年は主人にこのことを伝え、その人物が悪魔だと見抜いた主人に一計を授けられ、翌日同じ場所でバアルと再会すると、従者になる前にあなたの持っている赤い本に自分でサインをすると言い張り、ついにバアルから「アッピンの赤い本」を取り上げることに成功する。だまされたと知ったバアルは猛り狂うが、少年の足下には魔法陣が描かれており手が出せない。バアルは一晩中魔法陣の外で暴れるが、結局少年に手を出すことができず、バアルは「アッピンの赤い本」を失ってしまうのである。実は「アッピンの赤い本」には持ち主であるバアルの真の名前も載っており、バアル自身も服従されてしまうものであった…。

 とまあ、こんな訳で中世に比べると現代の悪魔に勢いがないのはもしかしたらこれが原因かもしれない。なお「アッピンの赤い本」はその後行方不明になってしまっている。もしかしたらバアルの手元に戻っているのかもしれないが、たぶん用心したバアルは軽々しく「アッピンの赤い本」を持ち出すことはもうしないだろう。あるいはどこかに秘蔵されているのかもしれない。んで、もしかしたらインデックスが読んでいるかもしれない。他の十万二千九百九十九冊はいいので「アッピンの赤い本」の内容を知っていたら是非教えてほしいものである。

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コラン・ド・プランシーの「地獄の辞典」の挿絵のバアル。醜悪な老人、ガマガエル、猫の顔に蜘蛛の足を持った怪物の姿で描かれているが、人間の前に出るときは長身の男性の姿をすることが多いと言われている。
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by narutyan9801 | 2013-05-09 10:10 | 妄想(オカルト) | Comments(0)