鼈の独り言(妄想編)

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ペニシリン アオカビが作った奇跡の薬

 生物の分類は大きく分けると、生産者・消費者・分解者に分けられる。このうち分解者として分類される生物の多くはカビなどの菌類である。菌類は胞子の時期は浮遊や付着などで移動が可能であるが,一度定着してしまうと移動ができず、他の菌に食物を奪われたり、他の菌に侵されそうになっても移動で逃げる手段を持たない。この状況に対処するため、菌類の中には防衛手段を持つものもでてきた。今回はそんな菌類が獲得した防衛手段を偶然にも発見、利用することになるお話である。

 1929年、イギリスでアレクサンダー・フレミングがブドウ球菌の培養実験を行おうとしたところ、ブドウ球菌を培養使用した培養床にアオカビが発生してしまった。殺菌の不徹底で本来は実験失敗であるが、フレミングはあることに気づいた。アオカビが発生している周囲にはブドウ球菌が発生せず、アオカビの周囲に無菌状態の部分が存在しているのである。さらなる研究の結果、アオカビを液体培養し、その後アオカビを濾過で取り除いた液体にも菌を寄せ付けない作用があることを発見した。この実験でアオカビに菌を寄せ付けない物質を作り出す能力があるらしいということが判明した。その物質そのものを取り除くことはフレミングにはできなかったが、予想されるその物質にフレミングはアオカビの学名(Penicillium)の名を取ってペニシリンと名付けている。

 ペニシリンの研究はその後も続けられ、1940年にフローリーとチェインによってついに単体分離に成功する。翌年人体に用いる実際臨床で有効性が認められる。はじめペニシリンは表層培養という牛乳瓶程度の培養容器の表面で培養された菌からの抽出で大量生産ができなかったが、1943年にタンクでの大量培養方法が確立される。大量生産が軌道に乗ると、ペニシリンはまたたく間に広まってゆく。時代はペニシリンを必要としていたのである。

 1939年に第二次世界大戦が勃発し、戦場では多くの負傷者が発生していた。当時の戦争では戦争そのもので死亡する人数よりも、負傷後感染症に罹患し合併症で亡くなる人数の方が圧倒的に多かった。戦場の治療では負傷そのものへの外科的治療と供に、感染症に罹患しないための治療も求められており、それに合致した薬が「ペニシリン」だったのである。さらにペニシリンは第二次大戦で大きな役割を担ったチャーチルの命を救っている。過労で肺炎に罹患したチャーチルにペニシリンが投与され、その命を救ったのである。もしペニシリンがなかったら歴史が変わっていた可能性は否定できない。

 海外でペニシリンが多くの負傷兵の命を救い始めていたとき、日本ではペニシリンについての研究は「全く」といっていいほど行われていなかった。ペニシリンの存在が予言されたときはまだ対戦前で、情報を掴む機会はあったはずだが…。1943年になってようやくドイツの医学雑誌に掲載されていた記事からペニシリンの研究が始まる。ちなみにこのドイツの医学雑誌、大戦中に輸入されたとなるとおそらく伊8号に積み込まれていたのだと思われるが、残念ながら管理者はこのことを確認できていない。知っている方がおられたら是非詳細を教えていただきたい。こうして遅ればせながら研究が始まったペニシリンは終戦前には少量ながら生産できる段階までこぎ着けたが、前線には届かずごく少量が使われたにすぎない。連合国側でも多くの負傷兵に投与するのに手いっぱいで、民間で使用が始まったのは終戦後である。第二次大戦でもっとも多くの負傷兵を救ったのはペニシリンであるとまで言われ、発見者のフレミング、単体分離に成功したフローリー・チェインは1945年にノーベル医学・生理学賞が授与されている。

 以前このブログで「民間人で初めてペニシリンを投与されたのはアル・カポネである」と書いたが、カポネはペニシリン投与の甲斐なく亡くなっている。ペニシリンの効果は真正細菌の細胞壁の合成を阻害する薬剤である。ペニシリンが作用した真正細菌の細胞は細胞壁が形成されなくなり、細胞分裂を起こせなくなる。さらに細胞壁が薄くなると浸透圧により細胞内に水分が入り込みついには細胞が破壊されてしまう。つまりは細胞が「ひでぶ!」となるわけである。この効能はヒトを含む真核生物には効果が低く。安全性が高い薬品といえる。とはいえアレルギーを起こすことがあり、昭和30年代にはペニシリンショックによる死亡者が社会問題化したこともある。
 アル・カポネの病気は梅毒で、ペニシリンは梅毒には非常に有効な薬品である。しかしカポネの場合、すでに症状は末期状態であり、梅毒菌を駆逐しても症状が軽減する状態ではなかった。ペニシリンは真正細菌が活動を始める前に投与するのがベストであり、すでに発病から数年以上経過したカポネを救うには遅すぎたのである。

 ペニシリンの発見はその後の抗生物質の開発の先鞭をつけたものであり、偶然による発見は「奇跡の発見」と呼んでもいいものであろう。
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by narutyan9801 | 2013-03-07 09:24 | 妄想(病気) | Comments(0)