鼈の独り言(妄想編)

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胡椒 ~古代ローマ人も愛した香辛料の王様~

 古代ローマ帝国では様々な食材が料理され食された記録が残っているが、ウナギもまたローマ人が好んだ食材である。その調理法がまた興味深い。背開きにしたウナギの身を適当な大きさにぶつ切りにして串を打ち、炭火でじっくりと炙りガルムという魚醤に蜂蜜やナツメヤシの実などを加えた甘辛いタレをつけて食していた。タレの製法やウナギの処理などに多少の差異はあるが、基本的には日本の江戸時代後期に考案された「蒲焼き」と同じ料理である。ところでウナギは脂っこい食材であり食する際には味を引き締めるための「薬味」が欲しいところである。日本では自生していた山椒を薬味に用いていたが古代ローマ帝国では世界帝国らしく遠国から輸入した薬味を用いていた。今回は古代ローマ人も愛した香辛料「胡椒」を考察したい。

 胡椒はインド原産のつる性の植物で種子を香辛料として用いる。この種子は発芽率が悪く胡椒の栽培を行う場合は接木栽培を行うことになる。接木をしてから果実をつけるまでには数年かかり、またいわゆる連作障害が発生しやすく栽培にはかなりの労力がかかる植物である。

 胡椒の実は完熟前には表皮は緑色、完熟すると赤色を帯びる。この状態のものをそれぞれ青胡椒、赤胡椒と呼んで産地ではこれを香辛料や食材として用いることも多いが、日本でよく目にする胡椒は青胡椒を乾燥させた黒胡椒、赤胡椒を乾燥させ表皮を剥いだ白胡椒である。胡椒の種類それぞれ風味が違い、食材との相性によって使い分けられている。

 胡椒の風味の主成分はヒペリンという物質である。ヒペリンには味覚を刺激する効用のほかにも抗菌・防腐・防虫の作用があり、胡椒は香辛料だけではなく食料の防腐剤として利用されてきたのである。またピペリンには薬効作用もあり下痢、嘔吐、腹痛などに胡椒が処方されてきていた。最近の研究では抗がん作用、抗酸化作用にも効果があるといわれている。また生体の代謝を一時的に阻害し薬などの薬効を向上させる効果が期待できるとの研究もある。

 胡椒がいつから香辛料として用いられているかは詳しくは分からないが紀元前4世紀のギリシャの書物には胡椒の記載がありこれ以前から地中海世界では胡椒を輸入していたと考えられる。ローマ帝国が栄えていた時代は高級品ではあるがそれなりに安定した量の輸入があったと思われるがローマ帝国の衰退により胡椒の価値は暴騰し西ローマ帝国との同盟交渉を一方的に破棄された西ゴート王アラリック一世は賠償として黄金とともに胡椒を要求したといわれている。

 7世紀になると地中海の制海権はイスラム諸国が制圧することになり胡椒はますます入手が困難な品物になる。中世ヨーロッパでは胡椒が貨幣の代わりに用いられたり金と胡椒が同重量で取引されたと言われている。造船や航海技術の発達によるいわゆる大航海時代を迎えるとヨーロッパ諸国は胡椒を求めて航路の開拓を進めるようになる。かのコロンブスも西回りでインドへ向かう航海を計画した際、スペイン王室と交わした契約の中に「インドに到達した暁には胡椒を持ち帰ること」との条文があったと言われている。彼は現在の西インド諸島にたどり着くがそこは胡椒の産地ではなかった。コロンブスは胡椒がどういう植物なのかよく分からずたどり着いた地にあった口にすると刺激のある植物を「胡椒」として持ち帰ったのである。これが胡椒と同じように人類の食物史に大きな影響を与えることになる「RED PEPPER」唐辛子である。

 日本に胡椒が伝来したのは6世紀後半から7世紀にかけてと考えられていて7世紀半ばの正倉院に納められた品々の目録には「胡椒」の記載がある。胡椒は最初は生薬として用いられていたが平安時代には調味料として用いられるようになる。胡椒は中国や琉球を介して比較的安定した量が輸入され唐辛子が日本に伝わる以前は山椒と並んで用いられた香辛料であった。唐辛子は日本でも栽培可能で輸入に頼らざるを得ない胡椒に置き換わって唐辛子が用いられるようになったと考えられている。

 現在胡椒は原産地のインドだけでなく東南アジアでも栽培が盛んで世界各国どこでも入手可能な調味料の一つになっている。その反面胡椒栽培には手間がかかる割に実入りが少なく栽培放棄される農園もあったと言われている。ところが中国など新興国での需要が高まり近年胡椒の価格は高騰の兆しを見せているという。紀元前より富を生み出してきた胡椒は現在に至っても大きな価値を秘めているのである。
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    胡椒の実。右の房は未成熟の実、左の赤みがかった実がやや成熟の進んだ実である。
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by narutyan9801 | 2016-09-06 02:23 | 妄想(その他) | Comments(0)