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鼈の独り言(妄想編)

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軍艦酒匂 ~日本最後ノ軽巡洋艦、原爆ニ沈ム~

 「軍艦」という定義は現在は「海洋法に関する国際連合条約第29条」に規定された船舶のことになるが、旧日本海軍で「軍艦」はある程度の規模や格式を備えた艦種が定められていた。今回は日本最後の「軍艦」として完成した軽巡洋艦「酒勾」を考察したい。

 軽巡洋艦「酒勾」は昭和14年に予算が承認された④計画(マル4計画)で建造が決定した阿賀野型軽巡洋艦4隻の最後の艦で、昭和17年11月21日に佐世保工廠で起工されている。すでにミッドウェイ海戦に敗れ雲龍型空母の増産など戦時増産体制に移行していたが、酒勾の建造は予定通り行われている。おそらく資材などの調達が済んでいたことと佐世保工廠はネームシップの阿賀野、三番艦の矢矧と過去姉妹艦を建造しており建造はスムーズに進む見込みが高かったためと思われる。酒勾の建造は急ピッチで進められたが、竣工は昭和19年11月30日、すでにレイテ沖海戦にも敗北し実質的に日本海軍が消滅した後であった。

 酒勾は完成後も佐世保に係留されていたが、昭和20年4月の天一号作戦に参加が予定され、佐世保から呉へ回航される。しかし直前になって酒勾の出撃は見合わされることになる。酒勾には戦闘任務での外洋航海の経験が無く艦隊行動に不安があったこと、対空兵器が7.6cm連装高角砲二基四門と対空能力が弱いこと(秋月型駆逐艦の半分)それとこちらは想像であるが装備魚雷の調整不足があったのではないだろうか?天一号作戦には姉妹艦の矢矧が随行、米軍機の攻撃で撃沈される。天一号作戦後酒勾は舞鶴に疎開させられる。酒匂は燃料節約のため陸上から電気を引き艦内の動力を使わないなどおよそ軍艦とは思えない待機を強いられることになる。昭和20年8月15日酒勾は舞鶴で終戦を迎える。実戦に参加する機会はついに訪れなかったのである。

 無傷で終戦を迎えた酒勾には復員作業の仕事が待っていた。手始めに北海道から韓国に労働者を移送し、その後ニューギニアからの引き揚げ者の移送を行う。ニューギニア近隣のビスマルク海やソロモン海はかって姉妹艦の阿賀野や能代が掛け巡った海域である。酒勾は何を思ったろうか?

 ニューギニアからの引き揚げ作業の終了後、酒勾は初めて「母港」の横須賀に帰港する。ここで特別輸送艦の任務を解かれた酒勾に待っていたのは原爆実験の標的艦となることであった。

 酒勾が原爆標的艦になったのはただ単に敗戦国の軍艦だったからというだけではなく、何らかの意志があったと管理者は考えている。実の所この時期のアメリカ海軍には「生粋の軽巡洋艦」が存在しなかったのである。
 当時アメリカ海軍の軽巡洋艦は「ブルックリン級」「アトランタ級」「クリープランド級」の3級が存在していたが(それ以外にもオマバ級があるが旧式)「ブルックリン級」は日本の「最上型」に対抗した艦型で排水量は一万トンを越えており、その設計を踏襲したクリープランド級と共に艦の大きさは「重巡」といってよかった。アトランタ級は防空巡洋艦としての要素が大きく、艦の大きさも阿賀野型より大きくなっていた。アメリカ海軍としては手持ちの軽巡よりコンパクトな艦が原爆の被害に耐えうるかは次の艦設計に是非とも欲しいデータだったろう。

 酒勾は横須賀で整備後、アメリカ海軍に引き渡され、日本海軍から自力航行のため操艦方法を伝授されるが、このときタービンの暴走事故を起こしてしまい片舷の巡航タービンが破損してしまう。このタービンは修復されることなく酒勾は実験の行われるビキニ環礁に回航される。

 1946年7月1日にビキニ環礁原爆実験、クロスロード作戦の第一回実験「エイブル」が実施される。標的艦である米戦艦「ネバダ」の斜め後方に酒勾は位置していた。原爆は標的艦ネバダから西北西におよそ700mずれ、ほぼ酒勾の上空(やや後方)約160m上空で爆発する。爆風により酒勾の後部構造物は前方になぎ倒され、艦体に亀裂が生じ火災も発生する。火災はやがて自然鎮火するが、亀裂からの浸水で酒勾は徐々に後方から沈み始める。米海軍は艦を沈めることが目的では無かったので酒勾を陸地に乗り上げさせ沈没を防ごうとするが、酒勾はそれを拒むように実験翌日の7月2日、ビキニ環礁内に沈没する。

 クロスロード作戦に従事した人が実験を水彩画に描いた作品がインターネット上にUPされている。その中の一つに沈没しつつある酒勾と、それを見守るかのように後方にネバダと長門が描かれている作品があったのでリンクを載せておく。当時の艦の位置関係ではあり得ない構図で、この作品を描いた人の意志が伝わってくるようである。
Japanese Cruiser Sakawa Sinking

 そして戦後、アメリカ海軍が新規に建造したミサイル巡洋艦「リーヒ級」の艦のサイズはかなり「阿賀野型」と似通っている。これは偶然の一致だろうか? 





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by narutyan9801 | 2013-07-02 09:56 | 妄想(軍事)