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鼈の独り言(妄想編)

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スミロドン 特化しすぎた狩人

 今から約300万年前の南北アメリカ大陸には大型の草食性ほ乳類が多数生息していた。それらを狩る肉食動物も大型化する獲物を捕らえるべく進化し、ある肉食獣の中には犬歯を大きく発達させ、それを用いて大きな獲物を狩るものが現れた。いわゆるサーベルタイガーの仲間である。その仲間でも一番最後に現れたスミロドン、今回はこの雄々しくも哀しい獣を考察してみたい。

 スミロドンは約300万年前から10万年前まで南北アメリカ大陸に生息していた。最初北アメリカ大陸で誕生したスミロドンはパナマ地峡の形成により南アメリカ大陸に進出し、南アメリカに渡ったグループの方が体が大きくなったと言われている。体の特徴はなんといっても発達した犬歯で、最大で24センチにも達している。体長は現在のライオンよりも若干小さめではあるが、犬歯の存在のためか模型などを見るとライオンよりも大きくすら見える。前足と肩は現世のネコ科動物と比較するとよく発達しているが、後ろ足は短く、腰が引けたような歩き方をしていたらしい。現世の動物だとハイエナの歩き方が近いといえる。その体勢のため早く走ることができず、獲物を狩る時は待ち伏せが主体であったと考えられる。
 スミロドンの狩りは待ち伏せた獲物に飛びつき、前足で獲物に抱きつき、犬歯を獲物に突き立て獲物に致命傷を負わせる方法だったと考えられる。突き刺した犬歯の内側はステーキナイフのような鋸状になっており、顎を閉じることにより突き刺した部分から引き裂けるようになっていた。この傷が気管や動脈などの重要組織を損傷させ、獲物を死に至らしめるのであるが、獲物が死ぬまでは時間がかかり、その間に反撃を受けることが多かったらしく、スミロドンの化石には骨折などの怪我をした個体が多く見受けられるという。ちなみに現世のネコ科動物は犬歯を脊髄に打ち込み獲物を即死させることができる。スミロドンがもし脊髄に犬歯を打ち込んでもスミロドンの犬歯は強度が弱く、折れてしまったり根本から抜けてしまったといわれている。

 獲物を倒してもスミロドンは獲物を十分に堪能することができなかった。あまりに巨大な犬歯はスミロドン自身の顎の噛み合わせすら阻害し、スミロドンは完全に上顎と下顎をかみ合わせることができなかったと言われている。そのためスミロドンは内蔵などの柔らかい組織だけを食べ、硬い筋肉などは食べられなかったと思われている。

 スミロドンの犬歯は、自分よりも大型の獲物を捕らえることを可能にすることができた素晴らしい武器ではあった。しかし、その大型の獲物が居なくなっては「諸刃の剣」でもある。約10万年前、地球が寒冷化に向かい、大型の草食動物が絶滅し、生き残った大型草食獣もマンモスのように群を作りスミロドンの狩りに不向きなものとなっていった。そしてオオカミやジャガーなど、環境により適応したライバルたちの出現がスミロドンの衰退に拍車をかける。せめてその牙が大型獣以外も狩れる利便性を兼ね備えていたらスミロドンはより洗練された肉食獣へ進化できたかもしれないが、スミロドンの牙は特化しすぎ、後戻りできない状態まで進んでしまっていたのである。

 北アメリカ大陸、現在のカリフォルニア州には地表にタールが湧きだし、大きな沼となっていたタールピットと呼ばれる地形がある。タールは粘性が高く、多くの動物がここで足を取られ死んでしまい、後年発掘されている。このタールピットで多くのスミロドン(推定2,000体以上)が発見されている。足を取られた動物を狩ろうとして自らも死んでしまったと思われ、そのためか「スミロドンは愚かだった」という説も存在する。
 確かに知能は後から現れた肉食獣には劣っていた点もあっただろう。しかしスミロドンには怪我をして動けなかった仲間に餌を運ぶ「感情」が存在していた(脊髄を損傷したスミロドンがしばらく生存していた化石が発見されている)その感情を考えると「飢餓感」という感情が「危険を察知する」本能を上回ってしまったのではないか?とも感じることができる。「牙」の存在で生き「牙」の存在で滅んでしまったスミロドン。進化の袋小路に陥った動物の姿はどことなく哀愁が漂う。
by narutyan9801 | 2013-03-27 09:13 | 妄想(生物)